今回は小説『星を掬う』町田 そのこ(著)のご紹介!
かつて自分を捨てた母親との共同生活が始まる。母親以外に数人の同居人がいるのだが、一度別れた母親と過ごすことになる感覚はどんなものなのだろうか。
過去・現在・未来。それぞれに思うこともあり、これまでに考えていたこともある。そういった出来事を簡単にゼロにすることはできない。ゲームと違って現実世界ではやり直しは効かないのだから。
書籍の情報を以下にまとめます▼
INFO
タイトル:『星を掬う』
著者:町田 そのこ
出版社:中央公論新社
発売日:2024年9月
メモ:登場人物の心情が多く描かれているストーリー
あらすじ

千鶴が夫から逃げるために向かった「さざめきハイツ」には、かつて自分を捨てた母・聖子がいた。他の同居人は、家事を完璧に担う彩子と、聖子を理想の「母」と呼び慕う恵真。「普通」の家族関係を築けなかった者たちの奇妙な共同生活は、うまくいきかけたものの、聖子の病で終わりを告げーーーーーー。傷つけながらも求め合う母娘の再生物語。
『星を掬う』裏表紙より
読書感想

思い出の価値
私たちは昔話が好きである。仲のいい友達と飲み会をした際、話の大半は過去の思い出話。だからいつだって飲み会の話題は同じことの繰り返しである。同じ話しかしていないのに時間が経つと、またあのメンバーで飲みたくなってしまう。
結局会社の上司の「俺の若い頃は。。。。」という自慢話も同じことなのだ。私たちは過去の出来事を振り返るのが好きで、将来の出来事なんて想像できない。子供の頃に想像した将来の夢も言わされてる感が強かった。
過去の話しかできない大人たちの後悔や理想を子供に押し付けていた。将来を想像し、将来に思いを馳せることは私たち人間にとって難しいことであるから、それできるってことは優秀な人または意識の高い人といった考えがあるのだろう。過去の話を繰り返したところでそれは価値を生み出すことはない。
洗濯機を回しただけなのに
休日の午前中。少し早い時間に旦那が起きた。どこか出かける予定でもあるのだろうか。そんな話は聞いていなかった。1階のリビングで朝食でも作っているのだろうか。鍋をコンロに置いた音が2階の寝室まで聞こえた。自分が発生させる音に無頓着な人に私はムカつく。
私の頭の中では後20分くらい布団で寝っ転がってから起きあがろうと考えていた。休日であろうとやらなければいけないことがたくさんある。目を閉じて少しすると、1階から機械音が聞こえてきた。おや、この音は洗濯機だな。どうやら夫が洗濯機のスイッチを入れたらしい。洗濯物を洗うというタスクは私の頭の中にもあった。
もうこれ以上ベットにいる意味もないと判断した私は1階のリビングへと降りていった。リビングでは夫が身支度を整えた状態でトーストとコーヒーを飲んでいた。2階まで聞こえた鍋の音はどうやらお湯を沸かす時の音だったようだ。トーストを食べおえ、コーヒーを流し込んだ夫は「今日は少し出かけてくる」と私に言った。
そして、「洗濯機回しておいたから」とも。あたかも私の代わりに洗濯機を回しておいてあげたとも取れる言い方。もともと私の今日のタスクとして洗濯物を洗うというタスクはあった。しかし、洗濯機を回したのなら、責任を持って干して欲しいと思うのである。干す気がないのなら、わざわざ洗濯機を回さないで欲しい。私には私なりのやり方があるのだから。
他人を見て自分を知るべし
たまたまいったデパートで安物市なるものが開催していた。現在の時刻は午後2時。安物市の開始時間は午後2時半とある。周りを見回すと、安物市に照準を合わせているであろう主婦の姿がチラホラと。こまめに時計を確認し時間を見ている。
あと30分。すでに買い物は完了して帰ろうとしていたところだったが、私もどこかで時間を潰そうと思い至った。しかし、あまり遠いところに移動するのははばかれた。なぜなら安物市において出遅れは禁物だからだ。
結局、近くにあった化粧品売り場をうろつきつつ、時間を潰した。陳列されている化粧品なんて見向きもしなかった。意識は完全に安物市。目線は陳列棚の隙間を通り抜け、安物市が開催される会場を見据えていた。
安物市開始まであと10分となった時、会場に動きがあった。私と同様、この近くで時間を潰していた主婦の中でいてもたってもいられなくなってしまった人たちがひと足先に集まり始めていた。本来、開始前の場所取りなどは禁止されている。
私は焦る気持ちを抑えつつ、可能な限り会場に近づける位置まで移動を試みた。あと5分、4分、3分となるうちに会場は主婦でごったがいしていた。こうなれば遠慮のストッパーは外れる。私もその輪の中に入り、臨戦体制を整えた。年越しを伝えるカウントダウンのようなものはなかったが、それぞれの心の中では開始を伝えるカウントダウンが心臓の鼓動と共に跳ね上がっていた。足の裏に力を込めて地面を蹴る準備は整った。
自宅にて、夕方ごろから始まる情報番組で、とあるデパートで開催されたバーゲンセールの模様が取り上げられていた。ソファーで寝そべりながらその様子を見ていた私は、鬼気迫る主婦たちの姿を見ながら鼻でフッと笑った。
コメント