『ノイズ』黒木 あるじ

小説

今回紹介するのは、小説『ノイズ』黒木 あるじ著です。
この小説は、2021年12月に集英社から文庫本が発売されました。

俳優の藤原竜也さんと松山ケンイチさんのダブル主演として映画化もされています。
私もそうですが、映画から小説の存在を知った人も多いのではないでしょうか?
それもそのはず、小説『ノイズ』は漫画(筒井哲也著)が原作であり、その後の同名映画を基に制作されたものとなります

少し複雑ですが、漫画、映画、小説と3度にわたって楽しむことができる作品です。

あらすじ

農家の圭太と猟師の純が暮らす孤島・猪狩島。圭太が生産する幻の黒イチジクにより復興ムードに沸いている。しかし凶悪犯が島を訪れ付近を徘徊。危機を覚えた圭太は純、巡査の森屋と共に、ハウス内で誤って凶悪犯を殺してしまう。島の未来のため、彼らは事実を隠蔽できるのか。些細なノイズから増幅する悪意の連鎖。謎解きものとは一線を画す新感覚サスペンス。漫画原作の同名映画を基に編まれた小説。

『ノイズ』裏表紙より

読書感想

ふるさとの繁栄

日本人の多くがふるさとを持っている。
昨今、仕事や進学などの影響で東京都内に住を構える人が多くなってきた。
しかしその多くの人はみな、ニセ東京都民である。

心に染みついたふるさとの光景は、田んぼが広がっていたり鹿や猪がこちらをじっと見つめる姿だったりする。

そんな生まれ育ったふるさとから東京という場所に移り住む理由は皆同じで、ふるさとにはない煌びやかな世界に憧れを抱いたと言ったところであろう。

ふるさとが東京のように時代の最先端を行き、12年周期でファッションの移り変わりが発生する場所だったらそこに住み続けるなどと。

小説『ノイズ』でもある男たちのふるさとが舞台となる。
幻の黒イチジクの栽培に成功したことにより、ふるさとは大いに盛り上がった。

イチジクを求めて遥々この孤島へ足を運ぶ観光客で大いに賑わう。
テレビの生放送まで予定されている。
当然、昔から住む多くの住人(そのほとんどは年老いた人)たちからは称賛の声が上がる。

一人の男の活躍により、文字通り180度孤島を蘇らせることができた。
どんなに誇らしいことだろうか?

自らが時代を造ったわけだ。
すでに存在する文化や歴史、娯楽が密集する東京に憧れるのとは訳が違う。

道を切り開いたものだけにしかわからない、特別な感覚がそこにはあって、決してその立場から身を引くことは考えられないことなのだろう。

小さなノイズが大きな影響をもたらす

黒イチジクバブルに盛り上がる猪狩島であったが、とある凶悪犯の登場で事態は大きく変化する。
その男は刑務所から出所した後の更生プログラムとして猪狩島へやってきた。

口数が少なく無愛想な男は、本心では全く罪に対する反省をしていなかった。
むしろ、次なる犯罪のきっかけを探しているかのようだ。
ある種必然的な出来事のようにその男は島内で再び罪を犯す。

男が猪狩島に足を踏み入れた時からすでにノイズは生み出されていた。
そのノイズが1秒、1分と時が経っていくうちに少しずつ大きな形を形成していく。

何年もかけて積み上げてきた黒イチジクバブルは小さなノイズに触れると弾け飛ぶ。
世の中どんなことでもそうなのである。

積み木を積み上げるときも一つ一つ慎重に、全体のバランスと重さを考えながら積み上げていく。
そこにちょっとした力を込めて突っついてみると、いとも簡単に崩れてしまう。
崩れ落ちる時は一瞬である。

積み上げた時の何百分の一の力でそれが現実となってしまう。

現実をひた隠す

猪狩島にやってきた凶悪犯は島内で再び罪を犯す。
そして、島民からも要注意人物と目をつけられるのだが、イチジク農家の圭太と猟師の純はその男を誤って殺してしまう。

どんな事情があっても殺人は殺人である。
しかし、猪狩島という狭く閉鎖された環境も相まってかその事実を隠そうとしてしまう。
嘘を隠すための嘘をまたついて。

現実を受け入れられない人は大胆な行動を取り始める。
違う世界に行ってしまったかのような、行動を平気で行うようになってしまう。
それは、自分という人間を納得させていくうちに歯止めが効かなくなってしまうからなのか。

ましてや、殺人といういくところまで行ってしまった状況において、それを超えるようなことはもう残されていない。
当の本人にしてみても、自分自身を止めることができない状態に陥ってしまう。
その証拠に犯罪者の中には捕まったことに安堵する人もいる。

もう、自らの力では現実には戻ってくることができない。
無理矢理にでも他者の力を借りて戻ることを望んでいるのだ。

まとめ

今回は小説『ノイズ』黒木 あるじ著の読書紹介でした。
映画を基に制作された小説ということもあってか、シーンの移り変わりがとてもシンプルで読みやすい作品でした。
そのため、小説には興味があるけどいつも最後まで読みきれない人におすすめです。

努力をして何かを成し遂げた人もたった一つのノイズによって、地位も名声も崩れ落ちてしまう。
残酷であり、どう対処すればいいのかわかりませんが、逆境や窮地に立たされた時に人の本性が出るとよく言われます。

自分自身に信念が存在するのか、この小説を通して感じました。

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