『あちらにいる鬼』井上 荒野

小説

どうもこんにちは!
今回は、小説『あちらにいる鬼』井上 荒野著のご紹介です。

この物語の特徴は、令和3年に逝去された瀬戸内寂聴さんがモデルという点です。
著者の井上 荒野さんは、かつて瀬戸内寂聴さんと不倫関係にあった井上光晴氏の娘にあたります。
何を隠そう、実の父親の不倫物語を題材にこの小説は作成されています。

生前の瀬戸内寂聴さんに取材を行いながら作り上げて行ったようです。
状況が状況なだけにかなり話題になった作品のようですが、読んでみるとこれまた一筋縄にはいかない作品となっています。

私がこの本を購入した際の記事も公開中です。
ぜひご覧ください。

 

書籍の情報を以下にまとめます▼

タイトル:『あちらにいる鬼』
著者:井上 荒野
出版社:朝日新聞出版
出版日:2021年11月30日(第1刷発行)
メモ:映画化が決定

あらすじ

1966年、講演旅行をきっかけに男女の仲となる二人の作家——―白木篤郎と長内みはる。繰り返される情事に気づきながらも心を乱さない篤郎の美しい妻、笙子。愛と<書くこと>に貫かれた人間たちの生を描ききった傑作。至高の情愛に終わりはあるのか?

『あちらにいる鬼』裏表紙より

読書感想

家族をモデルに描くということ

小説『あちらにいる鬼』は、著者の家族と令和3年に逝去された瀬戸内寂聴さんをモデルにした物語だ。
しかも不倫を題材としたストーリーとなっており、かなり生々しい。

著者自身、この物語を描くにあたって瀬戸内寂聴さんに取材を行ったようだ。
そのため小説『あちらにいる鬼』はノンフィクションの要素も含んでいる。
読者としては、フィクションとノンフィクション、どちらの側面からも楽しめるだろう。

家族をモデルに描くということはどういった感覚なのであろう。
家族は即ち、一番身近な存在であり様々な状況を知った仲ということになる。
しかし、小説『あちらにいる鬼』を読むと必ずしもそうでないことがわかる。

家族であってもよりディープな事情はあまり知らないのだ。
それが情事であれば尚更だ。

両親の馴れ初めを聞いたことがある人はどれだけいるだろうか?
馴れ初めを話す方だけでなく聞く方も恥ずかしくなる。
そこを明らかにし物語として形作っていくことは、開けてはいけないパンドラの箱を目の前にするような気分だ。

ただ今回、小説『あちらにいる鬼』を読んで一つ感じたことがある。
それは、両親の人となりは恋愛経験に詰め込まれているということだ。
両親が経験した恋愛を知ることが最も手っ取り早く両親を知ること、なのかもしれない。

男女の関係

小説『あちらにいる鬼』は不倫がテーマとなっている。
昨今、日本では芸能人の不倫が世の中を賑わせている。

「好きになってしまったんだからしようがない」

これが不倫なのである。
そもそも男女の仲が正当な間柄で成立すること自体が奇跡なのかもしれない。

美男美女のような恋多き人間はなおのことである。
だって、恋人がいない時間の方が短いのだから。
そんな人のことを好きになってしまったら、そりゃあ、、、しようがない。

ホテルの予約のようにキャンセル待ちをするわけにもいかない。
たった一度の人生、そして一期一会。
だから人は不倫をするのだろう。

果たして、人は不倫をした後のことを考えるのだろうか?
その未来には幸せな自分の姿が映っているのだろうか?
不倫をしたって幸せなんかにならない。

それがわかっていれば、誰も不倫なんてしない。
恋は盲目。

恋が愛に変わったらそれはもう、不倫ではない?

生と死

人間はいつか死ぬ。
ある程度歳を重ねると大体理解することである。
だから人は、後悔しない人生を送りたがるのだ。

しかし、人はいつか生まれる。
このことを考える人は少ない。
俺はもうすぐ生まれるぞ!生まれるぞ!生まれるぞ!…….生まれたぞ!
そんな奴はいない(たぶん。。。。)

では一体人間はいつ生を意識するのだろう?
色々と考えを巡らせてみたが結局、死に直面した時なのかと思う。
例えば、重い病に罹ってしまったときや、生死を彷徨うような事故にあってしまった時など。

人間は死んだ後に生まれ変わる、などといった論が世の中には存在するらしい。
それが本当なら、死に直面した時が一番、生に近いことになる。

小説『あちらにいる鬼』でも主要人物が迫り来る死に直面する。
なんだか、その時にやっと人間らしさが感じられる。

不倫を繰り返しているうちは、常に偽りの自分を演じている。
意味があるのかないのかはわからないが、不倫をしていることは隠す。
そのことによって、その人の真の人間らしさがぼやけてしまう。

長内みはる(モデル:瀬戸内寂聴)は不倫相手との関係を断つために出家した。
出家をしてからは様々な人に対して、「人間とは」を説いてきた。
人間らしさを手に入れるためには歳を重ね死に近づくか、それとも出家をするか。

それくらい私たちは日々見えない仮面をかぶっているのである。

まとめ

今回は、小説『あちらにいる鬼』井上 荒野著のご紹介でした。

物語に登場する人物にモデルがいる点や、不倫を題材にした作品であるところがどことなく生々しく感じます。
読む人にとっては全く縁のないストーリー展開かもしれません。
しかし、読み終えてみるとこういう人も世の中には確実にいる、ということを少し理解します。

しかも今の自分の立場は偶然の出来事がたまたま重なっただけなんだと考えさせられます。
出来事の前後関係が逆であったり、極端な話、2分の1の選択が違うだけでガラッと未来は変わってしまう。

何が正解で何が不正解なのか?
現代ではその物差しを他人と比較することで計っています。
一度きりの人生は、自分勝手に生きてもいいのでは?
作中人物は自分に正直な人が多くみられました。

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