今回は小説『with you』濱野 京子著のご紹介。
表紙には男の子と女の子が背中合わせになっている絵が。
男の子のなんとも言えない表情が印象的。
顔の色に相反して背景や服装の色が鮮やかなところにも目がいく。
濱野 京子さんは個人的にも初めて読む作家さん。
書籍の情報を以下にまとめます▼
INFO
タイトル:『with you』
著者:濱野 京子
出版社:講談社文庫
発売日:2022年7月15日(第1刷発行)
メモ:ヤングケアラーを題材にした作品
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あらすじ
夜のランニング中、中学三年生の悠人は公園のブランコに座っている少女・朱音と出会う。受験を控え、自分の存在意義を見出せないでいた悠人は、何か事情を抱えていそうな朱音に惹かれていく。朱音が母の介護と妹の世話をしている「ヤングケアラー」だと知った悠人は、彼女のために何かしたいと思いはじめる。
『with you』裏表紙より
読書感想
聞くことしかできないもどかしさ
大切な人が何かに困っている時、手を差し伸べるのが人間だ。
転んでしまった人がいたら体を起こしてあげればいい。
しかし世の中には目に見えない問題が多くある。
しかも人によってその解決策は異なる。
また、部外者である自分が踏み込んではいけない領域も存在する。
そんな時私たちは、その人の話を聞くことしかできない。
頭の中では必死に解決策を考えるもう一人の自分がいる。
「頑張れ」と励ますことは時としてマイナスの結果を生み出す。
言われなくても既に頑張っているということだ。
「頑張っているね。偉いよ」
これはこれでなんの役にも立っていない自分に腹が立つ。
相手の話を真剣に受け止めてあげること。
言葉を吐き出すことによってストレスや悩みは緩和されるのだろうか?
聞くことしかできない私たちは、それ以上に相手のことを見てあげる必要がある。
そらすことなく自分の目で。
教科書で学ぶ偽りの世界
歴史は現代に残っている様々なエビデンスによって真実化されていく。
しかし、世の中の出来事の中にはたまたまそうなったことが意外にも多い。
例えば、江戸時代のある日、たまたまお餅を食べたくなった将軍が
そのお餅を喉に詰まらせて死んでしまったとする。
その将軍が亡くなったのは、時代背景なんてことは関係がなく、たまたまである。
歴史において、このたまたまをどう見抜くのかが問題だ。
歴史を語る時、事実を折り曲げて話を飛躍させてしまうことが大いにある。
「いい国(1192年)つくろう鎌倉幕府」
語呂的にもいいし、なんせ覚えやすい。
だが、最近では1185年説が有力らしい。
「いい箱(1185年)作ろう鎌倉幕府」
もうよくわからない。
空間を「箱」と表現するのはライブハウスくらいだろう。
ヤングケアラー
小説『with you』はヤングケアラーを題材にした作品だ。
ヤングケアラーとは「18歳未満で家族の世話や家事をしている子供」のことを指す。
少子高齢化社会の中でこれから問題視されるキーワードだ。
ただ、今現在も目立っていないだけでヤングケアラーは存在している。
家庭で起きている問題について子供は学校の先生などの大人に話すことができないらしい。
少しの歪みはやがて大きくなり、学業や成長に影響をきたす。
子供は不調の原因とヤングケアラーとを結びつけることが困難だ。
こういった時、「大人にできることはなんだろう?」と考えることがある。
しかし、そう簡単に答えを導き出すことはできない。
大人一人の力で世の中の決まり事を覆したり変更したりすることはほぼ不可能だからだ。
少し時間をかけて考えてみると、私なりの結論じみたものに辿り着いた。
それは「まずは自分の身の回りの人を意識しよう」という考え方だ。
一人の人間が世の中をひとまとめに考えることには限界がある。
だからこそ、自分の近しい人を意識して気を配る。
耳で聞いて目で見て、近しい人の異変だけはすぐに気が付く。
世の中の問題を子供に託すのではなく、なんとか大人の中でせき止めなければならない。
まとめ
高齢化社会の中でよく聞くのは、老老介護という言葉だ。
お年寄りがさらにお年寄りの介護をする。
由々しき問題である。
小説『with you』を読んで、高齢化社会の波がすでに子供の元まで来ていることを知った。
知ることだけでも知らない時よりは確実に意識が異なる。
もちろん小説はフィクションでありディテールは読者の頭の中で形成される。
しかし、作者の執筆過程を想像すると社会問題を物語を通じて伝えているとも考えられる。
小説を読みながらにして、今を知ることができる。
そんな作品。
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