『青空と逃げる』辻村 深月

小説

どうもこんにちは!
今回は、小説『青空と逃げる』辻村 深月著の読書紹介です。
爽やかな青空とは対照的な表情が特徴的な表紙です。
「逃げる」という言葉も、この小説がちょっぴり暗い作品であることを暗示しています。

書籍の情報を以下にまとめます▼

タイトル:『青空と逃げる』
著者:辻村 深月
出版社:中央公論新社
出版日:2021年7月21日
メモ:単行本は2018年3月20日に中央公論新社より出版

著者の辻村 深月さんは2018年に『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞されました。

あらすじ

深夜、夫が交通事故に遭った。病院に駆けつけた早苗と息子の力は、そこで彼が誰の運転する車に乗っていたかを知らされる…..。夫は何も語らぬまま、知らぬ間に退院し失踪。残された早苗と力に悪意と追求が押し寄せ、追い詰められた二人は東京を飛び出した。高知、兵庫、大分、仙台ー。壊れてしまった家族がたどりつく場所は。

『青空と逃げる』裏表紙より

読書感想

失踪

また失踪である。
こんなにも世の中の家族というものは問題を抱えるのだろうか。
そしてその問題を解決もせずに失踪する。

家族が失踪する作品は他にも読んでいる。
公開中のためこちらもご確認いただきたい。

『迷宮遡行』貫井 徳郎

今回失踪したのは旦那である。
旦那は役者の仕事をしているのだが、ある日交通事故に遭った。
命に別状はなかったが、しばらく入院することに。

当然家族はお見舞いに行くのだが、この交通事故とやらが問題に。
事故にあった夫は、車を運転していなかった。
では、夫は誰が運転している車に乗って事故に遭ったのか?
そしてその運転手との関係はどうだったのか?

ここがこの物語の大きなポイントとなる。

しかし、当の本人が失踪してしまっていたら意味がない。
残された者はただ悶々と頭の中でしか想像ができないのである。

つくづく失踪ほど身内に迷惑をかける行為はないと思う。

息子の感情

夫が失踪した妻・早苗には力という名前の息子がいた。
早苗と力は、夫の行動によって(夫も被害者なのだか)とある組織から逃げる立場となる。

真実がわからないまま逃げ続けることは想像しただけでも恐ろしい。
組織に捕まってしまっても何も喋られることはないのだから。

力は逃げ続ける中で常に母親の姿を見てきた。
焦っている母親、怖がっている母親、疲れて辛そうな母親。
こんなにも短期間の間に移り変わる母親を見たのは初めてのことだろう。

子供ながらにも緊急事態真っ只中ということは重々承知していたに違いない。
普段見慣れない母親の表情に大いなる不安を抱えていたはずである。

高知、兵庫、大分、そして仙台

早苗と力はある組織から逃げ続け、土地を転々とする。
逃げながらも力との生活を保つため、早苗は働きに出ることもあった。
まだ子供の力も母親が働きに出ている時には一人で過ごすことになった。

早苗と力は各土地ではさまざまな出会いや経験をした。

早苗
高知県(四万十川) 「多和田屋」というドライブインの食堂で働く 高知県に住む遼という男の子からテナガエビの捕獲について教えてもらう
兵庫県(家島) 東京に戻ることを決意する 家島に住む優芽(ゆめ)と出会い、両親について相談する
大分県(別府) 砂湯で働く たばこ屋のおばちゃんの手伝いで銭湯の清掃をする
宮城県(仙台) 街の写真館で働く コミュニティデザイナーのヨシノに出会い、イベントの手伝いをする

早苗はどの土地に行っても息子・力との生活のことを考え、仕事をしたり次なる住処を検討していることがよくわかる。
一方、力の方は各地でさまざまな人と出会い、自らの判断で物事を決められるようになった。
一人の人間として成長している様を読み解くことができる。

まとめ

今回は、小説『青空と逃げる』辻村 深月著の読書紹介でした。
青空というポジティブな表現とは正反対の内容。
各地を転々としながら過ごした早苗と力の心は惜しくも晴天とはいかなかったでしょう。

力の母親として息子の生活を一人で守り続けるということは、とても大変なことであり辛い経験も多かったことでしょう。
それでも生活ができたのは息子・力の存在が大きかったと思います。

力自身も思春期を迎え、学校での生活に問題を抱えていました。
「逃げる」という言葉は、どこか後ろめたさを感じてしまいます。
ただ、「青空」という言葉と一緒になることで少しポジティブに捉えることもできます。

「逃げるが勝ち」といったように、全力で逃げることでその後の自分を助けることができるように、人生に追い詰められた時、人間は思いっきり逃げるべきだと思います。

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