『ある男』平野 啓一郎

小説

今回は小説『ある男』平野 啓一郎著のご紹介!
現在、妻夫木聡さんと安藤サクラさん主演で映画が公開されている作品。
映画も気になりますが、まずは小説から。

「ある男」
シンプルですが、読者心をくすぐるタイトル。
ある男をめぐるミステリー小説となっています。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『ある男』
著者:平野 啓一郎
出版社:文春文庫
発売日:2021年9月10日(第1刷)
メモ:個人的に同著『マチネの終わり』も好きです

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あらすじ

弁護士の城戸はかつての依頼者・里枝から奇妙な相談を受ける。彼女は離婚を経験後、子供を連れて故郷に戻り「大祐」と再婚。幸せな家庭を築いていたが、ある日突然夫が事故で命を落とす。悲しみに暮れるなか、「大祐」が全くの別人だと言う衝撃の事実が・・・・・・・・。愛にとって過去とは何か?人間存在の根源に触れる読売文学賞受賞作。

『ある男』裏表紙より

読書感想

信頼関係の罠

信頼関係とは本来、長い時間をかけて少しずつ築いていくものである。
相対する性別は例外ではないはずだ。

しかし奇妙なことに、急接近というべきか、信頼関係を早々に築きたがる人もいる。
そういう人の行動は早い
いきなり自らの手の内を明かすのだ。

受け取る側はというと、当然だが急に迫られると驚く。
反射的、生理的に拒否反応を示す。

ただそこで、相手が自らの手の内を明かしたことで、不思議な感覚に陥る。
それは、「ここまで包み隠さず明かしてくれたのだから・・・・」といった感情だ。
自らの見せたくない部分を見せてくれる人は信頼に値するといったように。

しかし、「タネも仕掛けもありません」と言ったところで、それはむしろ存在する。
もっと隠したい何かがその後ろに、明かした手の内に隠れるようにして潜んでいる。

人間は思い出によって形作られている

今日までの自分はこれまでの思い出・経験によって形作られている。
つまり、過去の出来事によって今があるということだ。
当たり前のことであるが、この事実に苦しんでいる人も多い。

過去の出来事で影響を与える1つとして、家族関係がある。
特に兄弟間の関わり方は大きく、兄は両親から期待され、弟は構ってもらえない。
というような兄弟間での格差を経験した人もいるのではないか?

もちろん、この経験が有利に働くこともある。
ハングリー精神は兄よりも弟の方があるということだってある。
兄よりも高みを目指す意気込みがその後の人生の支柱となる。

しかし、全ての人がハングリー精神を武器として扱うことはできない。
むしろ後ろめたさや、これまでの境遇に縛られ力を発揮できない人もいる。
事実を振り返ってみた時に思い込みに過ぎないことでも、客観的に見ることは難しい。

明るい未来を想像したところで、変わることはできない。
未来は架空であり、過去は事実である。
過去に囚われすぎると、気づかないうちに本来なかった出来事が自分を押さえつけてくる。

セミの抜け殻

セミは卵から孵化をして土に潜る。
そして土の中で木から栄養分をもらって成長していく。
約7年もの間、土の中で成長をし、そして地上へ姿を表す。

地上に姿を現したセミは、木や葉の裏などで羽化をして成虫となる。
ここまでの成長を一言で表すと、静寂という言葉が浮かぶ。
しかし、成虫となったセミは烈火の如く鳴き始めるのである。

ここまで生まれてから姿・形以外で変化のある生き物はいないのではないか?
セミの成長の過程のどこかでセミの生態を揺るがす何かがあったのだろうか。

木や葉に残ったセミの抜け殻は、セミが幼虫から成虫へと変化する分岐点である。
つまり、どちらが本来の姿なのかはわからないが、
過去と現在を隔てる境目ということだ。

その抜け殻は、そこに残り続ける。
いわば過去の自分を常に見れる状態である。
それは歓喜の叫びなのか、それとも悲哀の叫びなのか。

まとめ

今回は小説『ある男』平野 啓一郎著のご紹介でした。
ミステリー小説ということもあり、先の展開が気になりながら
スラスラと読み続けることができました。

ミステリーとして、序盤で発生した謎を解決するためにストーリーは展開されますが、
その中でただの謎解きではないことに気付かされます。
一旦読むことをやめて、ぼーっと考え込むという場面が何度かありました。

一味違ったミステリーに興味がある人におすすめの作品となっています。

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