【独自感想】『薔薇のなかの蛇』恩田 陸

小説

今回は、小説『薔薇のなかの蛇』恩田 陸(著)のご紹介!
舞台は英国。通称「ブラックローズハウス」で開かれたパーティでは、ある一族に伝わる「聖杯」が披露されることになっていた。しかし、近隣で起きた殺人事件によって様々な事件が発生する。

なんとも事件が起きそうな雰囲気の屋敷で起こる殺人事件。分かってはいるものの惹きつけられる作品でした。登場人物たちのキャラクターも個性的で単なる犯人探しというよりかは、人物描写にスポットを当てながら読むのもおすすめです。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『薔薇のなかの蛇』
著者:恩田 陸
出版社:株式会社 講談社
発売日:2023年5月
メモ:中世ヨーロッパを題材としたゴシックミステリー

あらすじ

英国留学中のリセは、十九世紀に建てられた「ブラックローズハウス」でのパーティーに招かれる。一族に伝わる「聖杯」が披露されるという。近隣で起きていた切断遺体遺棄事件の噂が囁かれる中、邸内で第二の切断遺体が見つかり、館の主人には脅迫状が届く。呪われた一族の謎に、禍々しく美しい少女が挑む!

『薔薇のなかの蛇』裏表紙より

読書感想

口笛を吹くから蛇が出る

どこかの国の蛇遣いが縦笛を吹きながら毒蛇を操っている光景を見たことがあるだろう。手品なのか、超魔術なのか、またはサーカスのような鍛錬によるものなのかは定かではないが、笛と蛇は2つで1つという印象を持つ。

その中で、「夜に口笛を吹くと蛇が出る」という言葉も聞いたことがある。振り返ってみると子供の頃、夜になって口笛を吹いていると母親から言われた言葉だ。この言葉の背景は、夜遅くに口笛を吹いていると近所迷惑になるから静かにしなさいという意味が込められている。単に静かにしなさいというよりも、蛇が出ると言った方が子供には効果があるということか。

しかし、私が子供の頃、部屋の中で口笛を吹いたからといって近所に迷惑をかけることはなかったはずだ。そんな隙間風に悩まされるような家に住んでいた記憶もない。それなのにも関わらず、「夜に口笛を吹くと蛇が出る」という言葉は言われ続けてきた。

近所に私の口笛のメロディーが聞こえるはずがないこと考えると、別の意味があったのだろう。それは、ある意味、口笛によって蛇が出てくるような気持ち悪さが、夜に口笛を吹くという行為に印象づけられていたということではないか。子供に言うことを聞かせるために作られたまやかしが、印象を強くして私たちの感情に付け入ってくることもあるのだろう。

見えてる疑問と見えていない疑問

バラバラになった思考を線で繋いでいくことによって、ロジカルな考えが生まれてくる。考えていることが多すぎて頭の中がパンクしそうになった時は、一つ一つの考えをまとめていくことが重要だ。そうすることで頭の中が整理され、一つの結論を導き出すことができる。

しかし、一つの疑問に対して様々な考えを繰り広げていくことは時として大失敗に陥ることもある。簡単に言うとその状態は、視野が極端に狭くなっているということだ。目の前に現れた疑問は必ず解決しないといけない代物なのか?その疑問に注目しているあまり、背後から襲ってくる疑問に対してはノーガードとなってしまう。

結局、背後から襲ってきた疑問によって情勢や立場がぐらついてしまったといった失敗を犯してしまうことも大いにある。敵に背中を向ける行為はそれだけ危険だということだ。可能性は無限にあり、その多くは自分の範疇を超えている。つまり、いくら予想をしたところで未来に起こりうる可能性のほとんどは想像しきれないということだ。

疑問というのは可能性の中に含まれるもので、可能性が存在する以上、疑問が生まれる。疑問を持てているということはある程度その可能性にも気がつけている状態である。本当に危険な状態は、疑問すら持てないことだ。何がわからないのかが、わからないという状態はなるべく短い時間に収めたい。

具体的なものなのに抽象的な評価

抽象的なものは私たちに様々な感想を与える。例えば、「喜びとは?」や「堕落とは?」など抽象的な題材は無限の思考が生まれる。これまでの世界は、私たちの様々な考え方があったからこそ発展してきたと言っていい。

その中で、美術の世界はとても面白い。絵画などの芸術作品は具体的なものとして展示されている。美術館を訪れる人々は、具体的に展示されている作品を鑑賞し、それぞれの思考を巡らす。単に大昔に作成された絵画が現代の美術館で展示されているという、不思議な感覚を楽しむ人もいるだろう。

一般的に絵の上手さは対象物を正確に模写することにある。しかし、美術館に展示されている有名な絵画の中には、必ずしも対象物を正確に模写していないものも多くある。つまり、絵が上手いから世界的に有名な画家になれるとは限らないということだ。

絵画という具体的な展示物を生み出しながらも、そこから感じられるものはみな抽象的だ。特に芸術作品というのは長い年月をかけて評価される。今の時代に評価されなくても100年後、1000年後には評価の対象となることだってある。生きながらにして評価をされず、すでにこの世にいない人に対して絶大な評価を与えるジャンルはそう多くはない。

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