【独自感想】『原因において自由な物語』五十嵐 律人

小説

今回は小説『原因において自由な物語』五十嵐 律人(著)のご紹介!なんだか謎の多いタイトルですよね。五十嵐 律人さんの作品はこれまでも複数読んできました。どの作品の表紙も特徴的で、正体不明な人物が描かれています。

本作品もミステリー作品で、若手人気作家と弁護士が関わる物語となっています。五十嵐 律人さんも弁護士の経験があるところから、作中の弁護士の感情や心情は経験者だからこそ表現できているのではと思います。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『原因において自由な物語』
著者:五十嵐 律人
出版社:株式会社 講談社
発売日:2024年6月
メモ:物語と現実がリンク

あらすじ

謎を解かなければ。私は作家なのだからーーーーー。若手人気作家・二階堂紡季には、誰にも言えない秘密があった。露呈すれば、全てを失う。しかし、その秘密と引き換えにしてでも、書かねばならない物語に出会ってしまい・・・・・。『法廷遊戯』で鮮烈なデビューを飾った著者が仕掛ける、緻密かつ大胆な、驚愕のミステリー!

『原因において自由な物語』裏表紙より

読書感想

個性を大事にする世界の一方で

私たち人間が他人と親しくなる際、共通性が重要な要素となる。趣味や性格、価値観が似ていると感じると、自然と親しみが湧き、関係が深まる。それは友人関係でも恋愛においても同じである。最近流行しているマッチングアプリでも、共通の趣味や関心を基に相手を見つける機能があり、それだけ共通点が親近感を生むことが強調されている。

しかし、その一方で、異なる価値観を持つ人に対しては、無意識のうちに冷たい態度を取ってしまうことが多い。私たちは「個性を大事にする」と掲げる社会に生きているが、実際に他人の個性を尊重することは容易ではない。

価値観の合う人たちと関わることで安心感を得るのは自然なことだが、世界は広く、人生は限られている。その限られた時間の中でより充実した人生を送るためには、自分の価値観の殻を破ることが大切である。しかし、自分一人でその殻を破るのは容易ではない。新しい経験や出会い、別れを通じて価値観の幅が広がり、殻は少しずつ破られていく。未知の経験に対する不安はあるかもしれないが、その不安はやがて興奮へと変わり、人生を豊かにする出会いや成長へとつながる。新しい価値観を受け入れることで、私たちの人生はより豊かで深みのあるものになるのだ。

ターゲットの選別

犯罪者は何人いようとも、犯罪を犯せばその行為に対して処罰が下される。仮に刑務所が定員オーバーとなったとしても、犯罪者は法に基づき逮捕される。しかし、一方で、コミュニティ内で行われる嫌がらせやいじめにおいては、ターゲットの選定が非常に曖昧である。しかも、ターゲットは時間とともに変わることがあり、まるで標的にする人数に制限があるかのように一人に絞られることが多い。

なぜこのような現象が起きるのだろうか?気に入らない人物が複数いるならば、全員をターゲットにするのが理に適っているように思われるが、現実はそうではない。常にターゲットは一人に絞られることが多い。これは、人間の醜い側面が関係しており、特に弱い人間ほど数で優位に立とうとする傾向があるからだ。多人数対一人という構図を作ることで、ターゲットに反撃の余地を与えない状況を作り出す。

もし、ターゲットが複数いた場合、そのターゲット同士が団結し、いじめに対抗する可能性がある。そのリスクを避けるため、いじめる側は常に一人を標的にし、弱者に圧倒的な不利な状況を強いる。これが、いじめにおけるターゲットの選定が常に一人である理由なのかもしれない。

体内で発酵する成長の分泌液

新しいことに挑戦する時、最初の一歩を踏み出せない人は多い。さらに、仮に始めたとしても、それを継続することはより困難である。「三日坊主」という言葉があるように、人は何かを続けることが苦手な生き物なのかもしれない。しかし、一方で、挑戦が人生を豊かにすることも私たちは知っている。だからこそ、ポジティブな解釈のもとで苦手なことや新しいことに挑戦する意欲を持つ。

どんな挑戦でも、初めて行うことは大抵失敗するものである。つまり、最初からうまくいくことは期待できない。大切なのは、1回目の失敗の後にもう一度挑戦できるかどうかにかかっている。たとえ1回目と2回目の間に時間が空いてしまっても構わない。どんな状況であれ、失敗をした後に再び挑戦することが最も重要だ。

再挑戦をすると不思議なことが起こる。根拠はないが、1回目よりも成長している自分に気づくことができる。まるで失敗や挫折が体内で発酵し、成長を促すエネルギーを生み出しているかのようである。1回目の停滞感はどこかへ消え、成長を実感できるのだ。つまり、ホップ、ステップ、ジャンプの過程においても、地面にしっかりと踏ん張る時間が必要であり、その踏ん張りの時間も成長の一部である。私たちはその時間を停滞と感じがちだが、実際には着実に成長しているのだ。

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