今回ご紹介する小説は、有栖川 有栖著『こうして誰もいなくなった』です。
小説『こうして誰もいなくなった』は、2019年3月に単行本として発売されました。
全14篇の短編小説集で、短い作品だと約2ページで物語が完結します。
この短編集の特徴は、現存する作品を著者の目線で制作したパロディーとなっているところです。
タイトルからも元になった作品を連想できるものもあり、新たな切り口で楽しむことができます。
あらすじ
仮想通貨で成功した若き大富豪によって”海賊島”に招待された10人の男女が巻き込まれる不気味な連続殺人事件————クリスティの名作を大胆に再解釈した表題作をはじめ、書店店長の名推理が痛快な「本と謎の日々」、肥大化した男の欲望と巨大生物の暴挙に恐怖する「怪獣の夢」、遊び心に満ちたタイポグラフィが楽しい「線路の国のアリス」など多彩な14篇を収録。ジャンルを超越した物語世界の魅力を堪能できる、唯一無二の作品集!
『こうして誰もいなくなった』裏表紙より
読書感想
パロディーの世界
記事の冒頭でも紹介したが、小説『こうして誰もいなくなった』は著者である有栖川有栖の独自解釈によるパロディー集と言っても良い。
もちろん、原作の内容を知っている人であればさらに楽しめる作品であると思うが、私は単純にひとつの作品として読み進めていくことができた。
特に2つ目に収録されている「線路の国のアリス」は不思議な物語だ。
タイトルからもご案内の通り、あの物語のパロディーだ。
しかし、登場してくる人物・情景が妙に日本臭く、ブリティシュ感は感じられない。
人の固有名詞に駅名が使われていたりもする。
もう、気になる箇所が多すぎて新たな作品として読み進めている自分にふと気がつく。
小説の表題にもなっている「こうして誰もいなくなった」は世界的にも有名なミステリー小説のパロディーだ。
著者はこの作品を執筆するにあたり、この世界的に有名なミステリー小説を読み返さなかったようだ。
記憶の中にある物語を呼び起こして文章にしていく。
その作業は、私たち読者がこの小説をパロディーとして楽しむ感覚と似ていたのではないか?
ひとつの作品を独自の解釈で読み進め楽しむことは、パロディー作品のみならず、小説全般の醍醐味だと感じる。
短編集の楽しみ方
今回、小説『こうして誰もいなくなった』を読んで気がついたことがある。
私個人のことなのだが、本に付箋を付けながら読んでいることだ。
なぜ私は付箋を付けるのか?
考えてみると、私にとっての短編小説の楽しみ方を再確認することができた。
- 話の内容を忘れないため
- 登場人物の整理のため
- 短編作品同士のつながりを発見するため
以上が私が付箋を付ける理由として考えられた。
この中でも「短編作品同士のつながりを発見するため」という点がポイントだ。
一見何の繋がりのない短編作品であっても共通のテーマを持っていたりする。
たとえば以下の作品。
「線路の国のアリス」 | アリスが線路の国でさまざまなハプニングを体験する |
「怪獣の夢」 | 一人の男が怪獣の夢を見る |
「出口を探して」 | どれだけ歩いても抜け出せない迷路に迷い込んでしまう |
「未来人F」 | 怪盗二十面相との戦い |
この4つの作品に共通するキーワードは「夢」である。
こういった共通点を見つけると、短編集全体の裏テーマがあるのではと想像が働く。
そこからあれやこれやと考えを巡らせるのが短編小説独特の楽しみ方なのだ。
しかし、短編集のあとがきを読んでみるとしっかりと答え合わせが待っていた。
「こうして誰もいなくなった」
表題作となっている「こうして誰もいなくなった」は世界的に有名なミステリーのパロディーだ。
私は、元になる作品を読んでいない。
そのため、ある意味「こうして誰もいなくなった」がオリジナルとなる。
「こうして誰もいなくなった」は、通称”海賊島”に招待された男女10人が事件に巻き込まれる。
人相を明かさない招待者からは、特別なサプライズがあると言われていた。
そのサプライズがどういったものなのかは、作品を読み進めていくうちにわかってくる。
そして、なぜこの男女10人が選ばれたのかも。
犯人がいるようなミステリーでは覆うにして、事件が起きたことを境に物語が進む。
作品を通し誰が犯人でその手口、動機は何かが気になる。
しかし、「こうして誰もいなくなった」では別のことが気になりだす。
その要素を引き出す大きなポイントは、タイトルである。
作品のオチがタイトルなのだ。
独特なミステリーでいうと、古畑任三郎のような倒叙型がある。
いわゆる、犯人がわかっている状態で物語が進行するものだ。
ただ、「こうして誰もいなくなった」は倒叙型のミステリーではない。
犯人は通常的なミステリーのように最後まで明かせられない。
しかし、タイトルでは豪快にオチを披露している。
ある意味喧嘩腰なタイトルは、作品の奥深しさを感じさせられる。
この作品では、誰が犯人なのかはあまり重要ではないのだろう。
なぜ、この男女10人が招待されたのか?
そこにポイントを絞って読んでみると、この作品特有の面白さに没入する。
元になった作品含め、小説としての最後(オチ)には否定的な意見が少しある。
ミステリー小説に求めるものとのギャップがあるかであろう。
ただ、この小説(パロディー元)が世界的に有名な作品であり続ける理由は、ミステリー要素を超えた魅力がありかつ、その要素が人々の心に響くものであるからなのかもしれない。
まとめ
今回は、小説『こうして誰もいなくなった』有栖川 有栖著の読書紹介をしました。
この小説は全14篇が収録された短編集で、表題作「こうして誰もいなくなった」は一番最後に収録されています。
短編集のため、どの作品から読んでも楽しむことができます。
また、短いものだと2ページほどで完結するため、隙間時間でも読むことが可能です。
ホラー、ファンタジーそしてミステリーとジャンルもさまざま。
きっと好きな作品に巡り合うことができますよ。
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