【独自感想】『クスノキの番人』東野 圭吾

小説

今回は小説『クスノキの番人』東野 圭吾(著)のご紹介!
ミステリ好きとしては外せない作家さんですが、今回の作品は私がこれまで読んできた作品とは違った雰囲気を纏っています。

タイトルと表紙を見ていて、感動系のミステリ?と想像しながら読み始めました。裏表紙に書いてあるあらすじを読んでみましたが、謎多き作品です。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『クスノキの番人』
著者:東野 圭吾
出版社:株式会社 実業之日本社文庫
発売日:2023年4月15日(初版第1刷発行)
メモ:すでに「クスノキの番人シリーズ」が発表?

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あらすじ

恩人の命令は、思いがけないものだった
不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と・・・・・。そのクスノキには不思議な言伝えがあった。

『クスノキの番人』裏表紙より

読書感想

親の夢を子供に託すことがもたらす顛末

テレビのドキュメンタリー番組で1組の親子が紹介されていた。父親は学生時代あるスポーツに打ち込んでいたが、怪我の影響でプロになる夢を断念することになった。時が経ち、息子が生まれた。公園で走り回っている姿を見ても運動神経は悪くなさそうだ。そこで父親はかつて自分が描いていたプロスポーツ選手になるという夢をその息子に託すことに決めた

プロになることは並大抵の努力だけでは到底及ばない。そのことは父親自身が痛いほど理解していた。だからこそ、息子に対する態度は自然と厳しいものになる。時には怒鳴りつけ、泣き喚く息子の姿を何度も見ながら心の中では「ごめんな」と呟く。その甲斐あってか息子は全国でも有名な名門校に入学し、今年からプロになる。「だから息子の夢は私の夢でもあるんです」日に焼けた顔がくしゃっと柔和になる。

まさにドラマにしても成立するような親子の物語である。しかし、なぜテレビ番組で取り上げられたのかを考えてみるとそれは、珍しいからだ。この物語を間に受けて自分の子供に対して自分の夢を押し付けてしまう親が一定数いる。上手くいけばこれはテレビで取り上げてもらえるだけの功績だ。しかし、珍しいからテレビに取り上げられるということを考えると、ほとんどの場合は失敗するということだ

人生は1度きりである。これはみんなに与えられたものである。最近気に食わないから小5の春からやり直そうなんて叶わない。人間1度きりの人生だからこそ、悔いのない人生を送ろうとする。自分の子供に自分の叶わなかった夢を託すという行為はいわば、2度目の人生を歩むことを意味する。これはルール違反ではないか。子供の大切な人生を使用するというのはあまりにも身勝手である。

そして一番辛いのは子供の夢が破れた時だ。子供は親の分身である。いくらパートナーとの掛け合わせであっても血統を超えた爆発的な誕生は望めない。親の夢も乗っかった子供の夢は想像以上に重い。夢破れた時のショックも自分自身がそれとなった時とは異なっている。そこまでの重圧を子供に背負わせてしまっていたという事実も夢破れるまで気がつくことはできない。取り返せない時間を親だからこそ考えてあげたい。

近道して答えに出会ってしまうと

最近はインターネットやSNSが普及したことにより、簡単に答えが手に入るようになった。わからないこともネットで検索することですぐに解決する。また、「タイパ」という言葉が流行っているらしく、これはタイムパフォーマンスの略だそうで、このタイムパフォーマンスに優れていることが流行のポイントであるようだ

このような世の中になってくると、じっくりと物事を考えるという習慣がなくなってくる恐れがある。例えば、恋人への誕生日プレゼントに対してもネットで検索をすればおすすめの品物が紹介されている。こういう時はどうしたらいいといった、漠然とした問いかけにもネットは答えてくれる。

疑問に対してすぐに答えが用意される生活に慣れてしまうと、人とのコミュニケーションにも影響が出てくる。それは人と会話をする時に常に疑問系になってしまうということだ。「何食べたい?」「どこに行きたい?」「今度の誕生日は何が欲しい?」質問される側はたまったもんじゃない。

食べ物にしても行き先にしても誕生日のプレゼントにしてもあなたが考えてくれたものであればそれだけで十分だ。考えることをサボる世界になるとこういったことが起こる。それは、失敗した時にそれを人のせいにする世界だ。あなたの言った通りにやったから失敗したのだと責任転嫁する。

自分でじっくり時間をかけて考えたことで失敗した場合、次はこうしてみようという考えが浮かんでくる。なぜなら、物事の詳細を理解しているから。つまり失敗の原因に気がつくことができる。しかし、人から言われたこと、ネットの情報から近道をして答えを求めてしまうと、物事の詳細な部分は理解できない。当然、原因もわからないため、対策も思い浮かばず、他人のせいにしてしまうのだ。

ネットの世界では答えを紹介しているのではなく、あまたある可能性の一部を紹介しているに過ぎない。そのため、ネットの世界には真逆の答えが散乱している。ある紹介ページではおすすめとされている商品も、別の紹介ページでは低い評価がされていたりもする。その大量に存在する情報の中から何を選択するのか、やっぱり自分でじっくり考える他に選択はない。

将来の展望

大人になればなるほど、将来の夢、展望を考えたり話したりすることに恥ずかしさを感じる人も多いのではないか。しかし、幾つになっても将来の夢、展望は持ち続け、自分に対してだけでもいいから語ることが大切だ

例えば転職をしたいと思う。今の会社に大きな不満はないが、転職をして別の環境で仕事がしてみたい。これだけだと弱い。なぜなら、今の会社を辞めなくても環境くらいだったら変えられるのでは?という質問に答えられないからだ。

ここでいう将来の夢、展望は具体的でなければならない。すなわち、なんとなくや感覚といった抽象的なものではいけない。今の会社は自社開発の事業はやっていないから、自社開発を行っている会社に転職をしたいや、もっと地方で働きたいが故に転職したいなど明確にする。

また、将来の夢、展望にお金を絡めるのも好ましくない。なぜなら、ある程度稼ぐとお金の感覚がフラットになる時が来る。つまりお金に執着しなくなるということだ。そうなってしまうと自分が行動を起こすモチベーションのありかを失う。とにかくお金のために頑張る。預金残高が上がっていくことが生きがいという人であればモチベーションの低下に悩まされる心配はないが、結局、お金は稼ぐよりも使うことのほうが快感は得られる。お金を使うことに満足してしまうと次なる一歩は重たくなる。

だからこそ、明確な将来の夢、展望が必要になってくる。つまり、人生を賭けてなんのためにやっているのかを自分自身で理解することで、いつまでも前のめりの人生を歩むことができる。

まとめ

今回は小説『クスノキの番人』東野 圭吾(著)のご紹介でした!クスノキに関わる人たちの隠された真実を読み解くという意味ではミステリ。しかし、登場人物に寄り添う形で読むと自分の人生に影響を及ぼす要素が散りばめられている、そんな作品でした。

私はミステリ作品に対して、非現実感を求めてしまうことがあります。つまり、現実世界では起こり得ない事件を作品を通して体験したいという気持ちです。そのため、小説『クスノキの番人』は私にとっては不思議な感覚がありながら読み進めていました。ミステリなのに参考にしようとしている自分。こういった作品の方が、読み終わった後も印象が残りやすいんですよね。

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