今回ご紹介する小説は、宮部みゆき著『長い長い殺人』です。
『長い長い殺人』は、平成4年に単行本が刊行されました。
この作品はなんといっても語り手が「財布」という点が特徴でしょう。
財布にもいろんな種類の財布があります。
地味な財布もあれば、派手な財布、ブランド物の財布もあり、それぞれ性格が違うのです。
あらすじ
轢き逃げは、じつは惨殺事件だった。被害者は森元隆一。事情聴取を始めた刑事は、森元の妻・法子に不審を持つ。夫を轢いた人物はどうなったのか、一度もきこうとしないのだ。隆一には八千万円の生命保険がかけられていた。しかし、受取人の法子には完璧なアリバイが・・・・・・・・・・。刑事の財布、探偵の財布、死者の財布————。”十の財布”が語る事件の裏に、やがて底知れぬ悪意の影が!
『長い長い殺人』裏表紙より
読書感想
財布だからこそ見えるもの
物語の語り手が財布というのは、小説『長い長い殺人』の最大の特徴と言っていいだろう。
財布は持ち主に常に寄り添い、持ち主の行先に同行をする。
そして何より、持ち主の懐事情に詳しい。
争いや揉め事は、元を辿ればお金に行き着く。
小説『長い長い殺人』でも保険金というキーワードが物語で重要となってくる。
財布はその人の金銭感覚やお金事情に最も詳しい存在であるだろう。
しかし、物語を読み進めていくうちにどうやら単純な事件ではない雰囲気が漂ってくる。
容疑者として浮上した人物が、お金に困っていないのである。
犯行の目的が全くわからないまま物語が進んでいく。
ただひとつ、犯人の財布だけが真実を握っている。
派手な財布と地味な財布
「人を見た目で判断するな」
ただ私たちは、財布は見た目で判断してしまっている。だいぶ。
財布を購入する際、人は、、、、
- デザイン
- ブランド
- 使い勝手
この辺りを気にしながら財布を選ぶだろう。
その中でもデザインはとても重要で、デザインが気に入れば少々使い勝手が悪くても購入を決めてしまう。
派手な財布もあれば、地味な財布もある。
不思議と派手な財布は、派手な人に好かれ、地味な財布は地味な人に好かれる。
小説『長い長い殺人』に登場する財布等も自らの見た目に左右された環境に身を置くことになる。
物語を読み終えると、自然と自分の財布をカバンから取り出してしまう。
眺めてみると、自分の財布が写鏡のように自分という人間を表しているように感じてしまう。
実写版『長い長い殺人』
小説『長い長い殺人』は、テレビドラマとして平成19年に映像化された。
驚くことに実写版『長い長い殺人』でも語り手が存在し、それが財布なのだ。
やや滑稽な構成ではあるのだが、先に小説を読んでいた私はすぐに気にならなくなった。
主人の近くに寄り添う財布に感情移入してしまったのだろうか。
素直に作品に集中し始める自分がいた。
当たり前だが、文字だけで書かれた小説においては、財布の姿形は私の想像の姿でしかない。
しかし、実写版となると話が違う。
そこに映像化された財布が存在するのだ。
「思っていたよりも派手じゃないな」
私の頭の中では相当派手な財布を想像していたのだろう。
それだけ私が派手な財布に縁がないということか。
まとめ
今回は、宮部みゆき著『長い長い殺人』を紹介しました。
これまで読んできた小説の中で、語り手が財布というのは初めてでした。
購入時は、この違和感に惹かれたのですが、読んでいくうちに全く気にならなくなりました。
むしろ財布によって語り口調が違い、物語の大きなアクセントとなっています。
財布が変われば、登場人物も代わる構成になっているため、ミステリーとしても秀逸です。
映像化もされているため小説と合わせて楽しむことができます。
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