【独自感想】『なれのはて』加藤 シゲアキ

小説

今回は小説『なれのはて』加藤 シゲアキ(著)のご紹介!ハードカバーで重厚感のある作品ですが、帯にある「一枚の絵から始まる運命のミステリ!」と言う文言に惹かれて購入しました。ミステリ作品は好きでよく読むのですが、「運命のミステリ」と聞くと、なんだか感動を伴った作品ではと予想されます。

読み終えて感じたことは、購入時に抱いた思いは間違っていなかったということです。私がこれまで読んできた作品の中でも、読後直後に表紙を眺めながら思いを馳せる、数少ない作品です。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『なれのはて』
著者:加藤 シゲアキ
出版社:株式会社 講談社
発売日:2023年10月
メモ:一枚の絵だけで展覧会が開けるのか?

あらすじ

芸術が招いた悲劇。暴走した正義。取り返しのつかない後悔。ある事件をきっかけに報道局からイベント事業部に異動することになったテレビ局員・守谷京斗は、異動先で出会った吾妻李久美から、祖母の遺品である不思議な絵を使って「たった一枚の展覧会」を企画したいと相談を受ける。しかし、絵の裏には「ISAMU INOMATA」と署名があるだけで画家の素性は一切わからない。二人が謎の画家の正体を探り始めると、秋田のある一族が、暗い水の中に沈めた業につながっていたーーーーー。「死んだら、なにかの熱になれる。すべての生き物のなれのはてだ」

『なれのはて』帯より

読書感想

鎖に繋がれた犬はよく吠える

「名選手に名コーチなし」という言葉は、現役時代に苦労を重ねた選手こそ、後に名コーチとして活躍できることを示している。苦労した経験があるからこそ、選手に寄り添い、共感しながら指導できるのだ。しかし、この原則がスポーツ界以外の、私たちの生活にそのまま当てはまるかというと、そう簡単ではない。

例えば、親が自分の子供に対して過度な期待を抱くことがある。これは子供にプレッシャーを与え、時に悪影響を及ぼす。親は自分の過去の経験をもとに子育てを行い、その過程で「正しい育て方」や「優れた親像」を探し求める。子供の成長は、いわばその答え合わせとも言えるだろう。親は真剣に子供を育てようとするが、その真剣さが時に空回りし、結果として子供に過剰なプレッシャーを与えることになる。

この状況は、過去の経験や信念に縛られすぎた結果であり、まるで頑丈な鎖に括られた犬がよく吠えるようなものだ。親自身が抱えている期待や不安が、無意識に子供に影響を与えてしまうのだ。

数年前の幸せに気づくような人は本当に幸せ者

幸せの実感は、後からやってくることが多い。しかも、その瞬間に感じているものが必ずしも「幸せ」であるとは限らない。むしろ、今が不幸せであるからこそ、「あの時は幸せだったな」と感じることがよくある。例えば、日記をつける習慣を持つ人がいる。最初の数日間はモチベーションが高く、日々の出来事を記録することに楽しさを感じる。しかし、人間は物事を継続するためには莫大な努力を必要とする生き物であり、次第に日記をつける頻度が減っていくのは自然な流れである。

そんな中、再び日記をつけ始めるタイミングが訪れることがある。それは、気持ちが落ち込んだ時だ。内面に広がる感情を発散させたい気持ちや、気持ちをポジティブに持っていきたいという欲求が生まれ、過去の楽しかった時や充実していた時の記憶を呼び覚ます。そして、その瞬間に「過去の幸せ」に気づくことが多い。

幸せは、必ずしも現在進行形で感じられるものではない。過去の記憶が今の状況と対比されたときに、ようやくその価値が浮かび上がる。人は不幸な時こそ、過去の充実した時間を振り返り、その時の幸せに気づくことが多いのである。このように、幸せの実感は時として遅れてやってくるものだ。

人に頼らない方が楽だったりする

チームで力を合わせることで、大きな目標を達成することができる。しかし、異なる考えを持つ人々が集まったチームでは、全員が同じ方向を向くことは容易ではない。チームが一丸となれなければ、目標達成は難しく、むしろメンバー同士の摩擦やいざこざが生じるだろう。人間は失敗を他者のせいにしがちな生き物であり、チームが大きくなるほどその傾向が強まる。誰かを責めることが容易になると、チームの目標達成よりも、責任の押し付け合いにフォーカスが移り、チーム全体が機能不全に陥る。

この現象は、大きな組織やチームをいきなり作ることのデメリットを示している。明確な目標や共通認識が欠けた状態では、チームは成果を上げるどころか、失敗に陥る可能性が高い。何かを成し遂げたいなら、まずは自分一人で行動することが賢明である。一人であれば、全ての責任は自分にあり、失敗を誰かのせいにすることもない。孤独を感じることもあるが、最初から大きなことを成し遂げる必要はなく、小さな成功体験を積み重ねることが重要だ。

その小さな成功が次第に自信を生み、自分の行動範囲を広げていく。成長や発展は、意識して取り組んでいる最中には感じにくいものだが、ふと振り返った時に、その実感が得られるものである。まずは一歩ずつ、地道に積み重ねることが成功への近道だ。

コメント