『野良犬の値段』百田 尚樹

小説

今回は小説『野良犬の値段』百田 尚樹著のご紹介。
文庫本で上下巻展開の作品です。

犬はペットの中でもトップクラスで人気の動物です。
成長した犬は人間で言う4、5歳くらいの知能があると聞いたことがあります。
人間の会話を理解していそうな犬は文字通り「家族」の一員として可愛がられるでしょう。

しかし、野良犬となると印象が変わってきます。
同じ犬種であってもトリマーによって綺麗にされている犬と野山を寝ぐらにしている野良犬とではペットとしての価値が変わってきます。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『野良犬の値段』
著者:百田 尚樹
出版社:幻冬舎文庫
発売日:2022年5月15日
メモ:現代メディアを切る作品(ミステリー)

あらすじ

『野良犬の値段』上巻

突如ネット上に現れた謎の「誘拐サイト」。誘拐されたのは、身寄りのない六人のみすぼらしいホームレスだった。果たしてこれは事件なのか、イタズラなのか。半信半疑の警察、メディア、ネット住民たちを尻目に「誘拐サイト」はなんと、被害者たちとは何の関係もない、大手メディアに身代金を要求する。前代未聞の「劇場型」誘拐事件が幕を開ける!

『野良犬の値段』裏表紙より

『野良犬の値段』下巻

最初は愉快犯の可能性も疑われていた「誘拐サイト」だったが、ある事件をきっかけに、一気に凶悪な姿を見せる。犯人の要求はエスカレートし、新聞社やテレビ局を恐怖に陥れる。果たして犯人の本当の狙いは何なのか?誘拐犯、警察、メディアによる三つ巴の駆け引きの末、事件は驚くべき結末を迎えるーーーーー。息もつかせぬ怒涛の一気読みミステリー!

『野良犬の値段』裏表紙より

読書感想

ホームレスの価値

「誘拐サイト」では毎日一回、誘拐の進捗が更新(投稿)される。
サイトの存在は世間を賑わす。
これはただの誘拐ではない。

なぜなら、誘拐の被害者はホームレスだった。

誘拐犯はホームレスの身代金を新聞社やテレビ局に要求した。
見ず知らずの人質に身代金を支払う義務はない。
さらに被害者はホームレスではないか。

これが新聞社やテレビ局の考えだった。

しかし、メディアは世間体を最も気にする業界である。
自社の取り組み一つで世間からのバッシングは避けられない。
バッシングは会社の損益に直結する。

「ホームレスは社会にとって何も生み出さない邪魔者だ。」
人々の中にそんな感情が少なからずあった。
人質が殺されようが関係がない。

ただそのような感情は所詮蚊帳の外からの意見である。
蚊帳の外は自由なものだ。
好き勝手にものが言えて、自らは怪我をしない。

一昔前までは情報を発信するとなると、メディアからでしかなかった。
しかし、最近ではSNSの流行により、個人でも情報を流すことが可能だ。
自らの発言の届き先を意識しないと、自分の価値がどんどん下がっていく。

メディアの価値

情報過多の時代。
消費者にとって情報の取捨選択はマストなスキルとなりつつある。
誤った情報に流されて、間違った行動をとってしまう人も多いだろう。

また、間違った情報を拡散してしまう恐れもある。

メディアはいつの時代からか、正確な情報よりも瞬発力を重要視してきた。
タイトルに「速報!」と付けることによって読者は食いついてしまう。

鉛筆一本(記事一本)で人の人生を大きく変えてしまいかねないことはきっと理解はしている。
しかし、「仕事だからしょうがない」
この言葉で済まされてしまっている。

仕事第一主義を未だ貫いている日本においてはこれが通用してしまっているのだろうか?

お金の価値

人質のホームレスを助けたければ身代金を支払う必要があった。
身代金イコール人質の価値となる。

身代金を要求された側は金銭を支払うだけの価値があるのかを考える。
一般的な誘拐事件ではスルーされる部分である。
なぜなら、そもそもその人にとって価値のある人が誘拐されるパターンがほとんどだからだ。

だれも見ず知らずの人のために身代金を支払いたいとは思わない。
本音は人質がどうなろうが関係ない。

しかし、風向きが変わることがある。
それは、身代金以上に都合が悪い状況に陥ることだ。
例えば身代金を支払わなかったことで死者が出た場合、世間からの目を気にし出す。
新聞社やテレビ局などのメディアは尚のことである。

読者や視聴者からの信頼を失うことは、会社の利益に直結する。
ここでお金の価値と人質の価値が逆転する。

お金の価値は常に流動的である。
外国を通せずとも簡単に覆るのである。
お金はその物体を見る人のフィルターによっていかようにもなる不確かなモノだ。

まとめ

世間から切り離されたホームレスを人質にした作品。
世論に振り回されながら右往左往するメディア。

ミステリー作品でありながら、時代を切る物語に読む手が止まりませんでした。
不思議と結末が気にならないくらい、作品の世界観に引き込まれ、現代社会と照らし合わせながら読み進めていきました。

自分の発言が知らないところで知らないうちに大きな出来事を動かす原動力になってしまっているかもしれません。

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