【独自感想】『深夜の博覧会』辻 真先

小説

今回は小説『深夜の博覧会』辻 真先(著)のご紹介。
「深夜の博覧会」と聞くだけでミステリの香りがツンときます。

サブタイトルに『昭和12年の探偵小説』とあり、ノスタルジックな雰囲気を醸し出しているミステリ小説となっています。一味違ったミステリ小説を読みたい人におすすめの作品です。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『深夜の博覧会』
著者:辻 真先
出版社:株式会社 東京創元社
発売日:2021年1月29日(初版)
メモ:昭和ミステリシリーズの第一弾

こちらの書籍を購入した際の記事もご覧ください▼

Amazonからの購入はこちら▼

あらすじ

昭和12年5月、銀座で似顔絵を描きながら漫画家になる夢を追う少年・那珂一兵を、帝国新報の女性記者が訪ねてくる。開催中の名古屋汎太平洋平和博覧会に同行し、記事の挿絵を描いてほしいというのだ。超特急燕号での旅、華やかな博覧会、そしてその最中に発生した、名古屋と東京にまたがる不可解な殺人事件。博覧会をその目で見た著者だから描けた長編ミステリ、待望の文庫化!

『深夜の博覧会』裏表紙より

読書感想

戦争ができたという考え方

現代では考えられないが、戦争がもたらす効果を期待した時代もあったようだ。世界のどこかでは今でも戦争が行われているが、もしかしたら戦争がもたらす効果を期待しているのかもしれない。

例えば、戦争で使用する武器や物資はで国内の経済力を高める効果が望める。外国との物資の取引には少々汚いものも扱われた。経済力の発展は国民に与える影響も多く、そういった意味で「戦争ができた」という考え方が生まれるのかもしれない。

また、戦争は国を指揮する立場にもあらゆるきっかけを与える。プロパガンダという言葉があるように、映画や雑誌、新聞などのメディアを通して戦争を肯定的なものへと思考を操作していく。国内全体が戦争に対して前向きな姿勢になることは、国を指揮するものにとってこれ以上ない好条件となる。

自らの発言力が高まってくる。国のトップの支持率が高いことで、国内のみならず国際的な影響力も出てくる。現代では戦争をすることによって失うものの多さに目がいくが、それは環境が整っていることを意味するのかもしれない。

最愛な人との出会いがもたらした結末

この人のためならなんでもできる。そんな人と出会ったことがあるだろうか?友達なのか、恋人なのか、子供なのか、両親なのか。そんな最愛な人との関係は当事者にしかわからない感情が隠されている

大切だから厳しくするのか、それとも甘やかすのか。それも個人の判断となる。相手のことを思えば、最低限、世の中に出た時に恥ずかしくない人間にしてあげたい。多少厳しくはなってしまうが、子供への躾は典型的なパターンである。

しかし、悲しいかな、こちら側の心理相手に伝わらないことがしばしばある。口うるさい、細かい、厳しい。全てはあなたのためなのよと、もどかしさを感じる人も多いのではないか。

相手との関係性にばかり気持ちが入ってしまと、次第に歪んだ関係性が構築されてしまう。誰もがいい人に見られたいと思うものだが、目先のことばかり気にしてしまうと、後に引けなくなってしまう。

他人のことを思う純粋な気持ちは、1度のめり込んでしまうと、壁に激突するまでそのおかしさに気がつくことができない。

歪んだ愛情

愛情とは常に閉鎖的である。他人からは理解されないし、愛されているように見えるのと実際、愛されているのとでは意味が違う。他人から見て愛情に満ちた夫婦であっても実際の関係性は窺い知れない。

歪んだ愛情は止めることができない。その愛情の先にあるのは決して幸せではなく、自己満足に近い感情だ。私はこんなにこの人を愛してきたという実体験が自らの存在価値に箔をつける。

しかし、人を愛した実績はは愛された側の気持ちによって決まる。正しい愛情をたっぷりと受けた人はそれに感謝し、もらったもの以上のものをもたらそうとする。一方、歪んだ愛情は困惑を与える。いわば必要としない愛情だ。

ただの自己満足にしたった愛情表現は一方通行でしかなく、愛情享受のサークルは描くことができない。愛する一方で、誰からも愛されないことに気がついた時、初めて自身の歪んだ愛情を見つめることになる

まとめ

今回は小説『深夜の博覧会』辻 真先(著)のご紹介でした。昭和時代の探偵小説ということもあり、これまで読んできたミステリ作品とは雰囲気の違う作品でした。作品を通して「愛情」というキーワードが浮かんできました。

「愛情」と聞くと、母親が赤ちゃんをあやす姿や恋人から夫婦に移り変わる男女の感情を想像します。しかし、時に深い愛情は激しい摩擦をも引き起こすこともあり、2面生を持ち合わせています。ポジティブな印象とネガティブな印象を兼ね備えた言葉がストーリーから滲み出ていました。

Amazonからの購入はこちら▼

コメント