【独自感想】『黄色い家』川上 未映子

小説

今回は小説『黄色い家』川上 未映子(著)のご紹介!黄色に塗られた外壁が表紙のデザイン。タイトルからも穏やかな物語なのかと思いきや、かなりディープな作品。

子供の頃から孤独と闘いながら大人になっていく少女。本来、誰かに頼りながら生きていく年代を自分の力だけで生存していかなければならない。私の過去と照らし合わせながら読んでみると、小説というフィクションの世界でありながら、読後も考えさせられる作品です。

単行本ということもあり、読み終わるまで時間がかかってしまいましたが、物語の内容がディープな故、こちら側の気持ちが整わないとなかなか手にできなかったことも原因かもしれません。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『黄色い家』
著者:川上 未映子
出版社:中央公論新社
発売日:2023年2月25日(初版発行)
メモ:心にずっしりくるノワール小説

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あらすじ

2020年春、惣菜屋に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。60歳になった彼女は、若い女性を監禁・傷害の罪に問われていた。長らく忘却していた20年前の記憶ーーーーーー黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、よりリスキーな”シノギ”に手を出す。歪んだ共同生活は、ある女性の死がきっかけに瓦解へ向かい・・・・・・・・。善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作!

『黄色い家』帯より

読書感想

掴みにいく幸せか、やってくる幸せか

幸せの定義は人それぞれであり、お金、家族との関係、仕事の充実など、多くの人がこれらを幸せの源泉と考える。これらを追求する過程で、深く考え、計画を立て、努力することが一般的には幸せへの道とされている。しかし、世の中には何も深く考えず、日々をただ過ごしている人々も存在する。彼らは、考えることの負担やストレスから自由であり、その無邪気さが、意外と幸せを引き寄せる要因になっているように見えることがある。

人間は考えることで様々な恩恵を受け、目標に向かって進むことで幸せを感じる生き物である。しかし、考えすぎることが逆に心の負担となり、幸せから遠ざかることもある。一方で、何も考えずに生活する人々は、その瞬間瞬間を純粋に楽しむことで、幸せを感じることができる。彼らにとって幸せは、複雑な思考や計画を超えたところに自然と存在している。

このことから、幸せに対するアプローチは多様であり、一概にどちらが良いとは言えない。大切なのは、自分にとって何が幸せかを見極め、そのために必要な生き方を選択することである。考えることによって得られる幸せもあれば、何も考えずに得られる幸せもある。それぞれの生き方があり、それぞれに価値があるのである。

こちら側とあちら側の違い

日常生活のルーティンは、多くの人にとっては自動的に行われるごく当たり前のものである。朝起きて、食事をし、仕事に行き、夜には休息を取る。この繰り返しは、私たちにとって無意識に近い行動パターンとなっている。仕事によって得た対価で生活必需品を購入し、日々の生活を営む。このような生活は、安定した社会生活の基盤となっている。

しかし、世の中にはこのような日常生活を送ることができない人々もいる。経済的な困難、健康上の問題、社会的な障壁など、様々な理由により、日常生活のルーティンを確立することが困難な状況にある人々である。彼らにとって、私たちが無意識に行っているような日常の行動は、遠い夢のように感じられるかもしれない。ごく普通の生活を送ることができない彼らは、その理由やきっかけを常に模索している

この事実は、私たちにとって当たり前の日常が、実は特定の条件や環境に恵まれているからこそ成り立っていることを示している。日常生活のルーティンを当たり前と思わず、その背景にある恵まれた環境に感謝すること、そして、日常生活を送ることができない人々に対する理解と支援の必要性を、私たちは改めて認識するべきである。

負の感情の収納に長けた人間たち

イライラやムカムカといった感情を感じることは珍しくない。特に共同生活をしている場合、さまざまな感情が交錯し、時にはその感情を抑えることが求められる。多くの人は、その場の平和を守るため、または大きな争いを避けるために、奥歯を噛みしめて苛立ちを内に秘める。しかし、このようにして抑え込んだ負の感情は、消え去るわけではなく、心の奥深くに蓄積されていく

そして、ある時、抑え込んでいた感情が限界を超えて爆発することがある。その際、人は過去に起こった出来事を掘り返し、その時の怒りや不満を全て相手にぶつけることができる。この行為は、その時点での怒りだけでなく、過去に蓄積された感情の総和である。相手にとっては、なぜ今更昔のことをと感じるかもしれないが、怒りを爆発させた側にとっては、その時の感情がまだ生々しく残っており、解消されていないのである。

この現象は、人間が感情をどのように処理し、どのように記憶するかについての洞察を与える。感情を抑え込むことは一時的な解決に過ぎず、根本的な問題解決にはならない。むしろ、適切な時に感情を表現し、問題に対処することが、長期的な関係の健全性を保つ上で重要である。感情の爆発は、抑え込んだ感情の危険性を示し、対話と理解による解決の必要性を教えてくれる。

まとめ

川上未映子の『黄色い家』は、繊細な筆致で人間の内面と複雑な感情を描き出した作品です。この小説は、読者を日常の枠を超えた深い思索へと誘います。物語を通じて、登場人物たちが直面するさまざまな感情や出来事は、私たち自身の経験や感情と重なり合い、深い共感を呼び起こします。

物語の中で描かれる、人間関係の繊細さや、日常の中に潜む非日常の感覚は、読者にとって忘れがたい読書体験となるはずです。『黄色い家』は、ただの物語を超え、私たち自身の内面と向き合うきっかけを提供してくれます。

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