『悪い夏』染井 為人

小説

今回は、小説『悪い夏』染井 為人著のご紹介。
早くも梅雨が明け、茹るような天候にぴったりの作品。

タイトルの『悪い夏』の意味合いは作品を読んで確かめてもらいたい。
みなさんは「夏」と聞いてどういった思いを抱くだろうか?
夏が好きな人もいれば、嫌いな人もいることだろう。

ちなみに私は夏が嫌いだ。
歩いただけで汗をかくのがどうしても許せない。

こんな私だが、子供の頃は夏が好きだった記憶がある。
子供の頃に経験した楽しいイベントは夏に集中していた。
そういうことなのだろう。

年齢や立場が変わることで夏に対する考え方が変わるみたいだ。
小説『悪い夏』を読み終えた後、どう夏を感じるだろうか。

書籍の情報を以下にまとめます▼

INFO
タイトル:『悪い夏』
著者:染井 為人
出版社:角川文庫
発売日:2020年9月25日(初版発行)
メモ:社会派サスペンス作品

あらすじ

26歳の守は生活保護受給者のもとを回るケースワーカー。同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケースの女性に肉体関係を迫っていると知った守は、真相を確かめようと女性の家を訪ねる。しかし、その出会いをきっかけに普通の世界から足を踏み外してーーーーーー。生活保護を不正受給する小悪党、貧困にあえぐシングルマザー、東京進出を目論む地方ヤクザ。加速する負の連鎖が、守を凄絶な悲劇へ叩き墜とす!第37回横溝ミステリ大賞優秀賞受賞作。

『悪い夏』裏表紙より

読書感想

生活の維持

厚生労働省のHPを見てみると、生活保護に関して以下のように記載されている。

制度の趣旨

生活保護制度は、生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、自立を助長する制度です。(支給される保護費は、地域や世帯の状況によって異なります。)

厚生労働省HPより引用

ここで注目するべきは、「自立を助長する制度」というところである。
すなわち、生活保護には終わり(目指すべきゴール)があるということだ。

自転車でいう、補助輪。
水泳でいう、ビート板。
風邪でいう、処方薬。

と言ったように、いつかは独り立ちしなければいけない。
大の大人がいつまで経っても補助輪付きの自転車を漕いでいるのは恥ずかしい。
しかし、振り返ってみると子供の時分、羞恥心を原動力に自転車の練習をした覚えはない。

生活に困窮する生き方は、周りから見れば恥ずかしいこだと思う人もいるだろう。
ただ、恥ずかしいことだからと言って解決する問題でもない。
困窮に困窮を重ねた人は恥ずかしいという気持ちも過去の思い出かもしれない。

では、どうやって困窮な状態から抜け出せばいいのだろうか?
人はズブズブとした沼地に足を取られてしまった時、どう脱するのだろうか?

おそらく、一人では無理だろう。
人の力なのか、自然の力なのかはわからないが、何か自分以外のものに助けてもらう必要がある。

アマゾンの奥深く、人っ子一人いない沼地に足を取られ身動きが取れなくなってしまった。
そんな時にまとまった金を手の届くところに置かれても困る。
ピンチな時は金よりも人に助けてもらいたい。

当事者意識

当事者意識を持つ。
会社の新人研修などのテーマによく挙げられる。
当事者意識を持つことで相手の立場に立って物事を考えることができるといったものだ。

しかし、当事者ほど自分勝手な人はいない。
そんな人の立場に立ったからといってベストな行動を取れるわけではない。
当事者がさらにふんぞり返るだけである。

ケースワーカーという職業があるらしい。
生活に困窮してしまった人たちを支援する仕事だ。
しかし、その一方で生活を正すことも仕事の一部みたいだ。

いや、現実的にこちらの仕事の方が大きな割合を占めているように見えてしまう。
日本という社会は、弱いものいじめをものすごく嫌う社会だ。
その考えは正しい。

しかし、弱いものが何かを境に偽強者になる時がある。
この偽強者は厄介だ。
なぜなら、自分の弱みを武器に戦ってくるからである。

そのような人の立場に立って物事が考えられるだろうか?
差し伸べようとしていた手も引っ込めたくなる。

しかし気をつけないといけないことがある。
それは、自分という人間をどこまで理解できているかということだ。

人生の歯車が乱れ、自分も弱者の立場になった時、知らない間に自分の弱みを言い訳にしてしまうことがあるかもしれない。
それは偽強者の始まりである。

当事者意識は、当事者になってその全貌を理解する。

夏という季節

ジメジメとした梅雨の季節が開けるといよいよである。
毎年7月頃に訪れる夏に最初は皆、歓喜する。

だが、日本における夏は南国のようなカラッとした気候ではない。
梅雨が明けたといっても平均的な湿度は高い。
その事実に気がついた時、やっぱり夏は暑いとったネガティブなため息が漏れる。

街中には襟足を刈り込んだ男女が行き来する。
夏の暑さを2つの角度から見てみる。
暑さとの関わり方である。

早く暑い状況から抜け出したい人は、自然と早歩きになる。
早歩きをすると当然、身体中は汗でびっしょりだ。
ただ1秒でも早く家に帰ってシャワーを浴びることはできる。

もう一方は、暑さと長く付き合う人だ。
この人の歩くスピードはゆっくりだ。
早歩きの人に比べると汗はかきにくいが、暑さと関わる時間は長くなってしまう。

2つの内、どっちを選ぶかによって人となりを感じることができる。
このように事実は1つでもその中のサイドストーリーは枝分かれしていることが多くある。
いくつものサイドストーリーを抜けた先にあるのは、ただの暑い夏なのか?

まとめ

『悪い夏』
このタイトルを書店で見たとき、疑問を抱いた。

夏は毎年訪れるのに「悪い夏」か。
タイトルの頭に「今年の夏は、」が付くのかな?と。

そうしないと、夏自体が悪者になってしまう。
確かに夏は暑がりにとっては悪者だ。
しかし、天気の雨同様、夏をこよなく愛する人も多くいる。

私は「悪い夏」の前に付くだあろう言葉を探すためにこの本を手にした。

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